クラブチッタ川崎で行われた、イタリアのバンド ARTI & MESTIERI のライブを観てきました。
プログレッシブ・ロックやジャズ・ロックのファン以外には、決して知名度の高いバンドではありません。デビュー30年目にしての初来日という条件を考慮しても、集客面ではやや不安がありましたが、当日券が出ていたとはいえ、会場後方までほぼ埋まる盛況ぶりでした。フリオ・キリコ正面の5列目という、なかなか良い位置からライブを楽しむことができました。
まず圧倒されたのは、全てのファンが待ち望んでいた生フリオ・キリコのドラミングです。「情熱的」という言葉がこれほど似合うドラマーも珍しいでしょう。アルバム『Tilt』発表当時、「世界一」とも評された高速ドラミングは、50歳を迎えた現在も衰えを感じさせません。むしろ、その迫力はさらに増しているようにすら感じられました。
同年にはアントニオ・サンチェスやデイヴ・ウェックルといったトップドラマーの演奏も観ていますが、フリオ・キリコはそれらとはまったく異なる説得力を持つドラマーです。
観察していて気付いた点として、フリオは左利きのようでした。サインも左手で書いており、ドラムセットは右利き用をベースにしつつも、センターから左右にタムの口径が小さくなる配置、両脇にフロアタムを置く変則的なセッティングです。
左側のハイハットを左手で、外側に傾けたスネアを右手のレギュラーグリップで叩くスタイルは、非常に独特で印象的でした。
フリオと並ぶオリジナルメンバー、キーボードのベッペ・クロヴェッラは、ドラムライザー横の後方高台にブースを構えていました。正面にはHammond B-3、その上にRoland JD-800。JD-800はモノフォニックのシンセリード的な使い方が中心だったようです。
左右のキーボードはやや視認しづらかったものの、下手側にRhodesとステージピアノ系の鍵盤、上手側にはYamaha MOTIF 7が確認できました。メロトロン風の音色も聴こえましたが、実機かどうかは判別できませんでした。
初来日のオープニングを飾ったのは、予想通り1974年の名盤1stアルバム『Tilt』の冒頭曲「Gravità 9.81(邦題:重力)」。冒頭のユニゾンフレーズから、一気に会場の空気が引き締まります。6/8拍子のピアノバッキングに乗せて、フリオの高速ストロークが炸裂し、アルティ・エ・メスティエリならではのアンサンブルが立ち上がっていきました。
セットリストの詳細までは把握できませんでしたが、1st『Tilt』と2nd『明日へのワルツ』の初期2作からは、ほぼ主要曲が演奏された印象です。そのほか『Murales』収録曲や、当年発売の最新作『Estrazioni』(新曲と過去曲の再録音を収録)からも数曲が披露されました。
アルバムでは緻密で構築的な印象の強い楽曲も、ライブでは勢いと躍動感が加わり、ラテン・バンドらしい生命力が際立ちます。地中海的なメロディに浸っていると、「Strips」でボーカリストが登場。身体にチューブ状のものを巻き付けた独特の出で立ちが目を引きました。
ボーカルのマッシミリアーノ・ニコロは、細身で中性的な雰囲気を持つ実力派。インスト曲が多いバンドのため、曲によっては袖に下がったり、演奏中に紙飛行機を折って客席に飛ばすなど、自由度の高いパフォーマンスも見せてくれました。
アンコールでは、敬愛するAREAのデメトリオ・ストラトスに捧げるかのような、ホーミーを交えた迫力あるボイスパフォーマンスを披露しました。
アルフレード・ポニッスィは、ソプラノ、アルト、テナー・サックスに加え、フルートも自在に操るマルチプレイヤー。特にサックスでの超高速フレーズは圧巻でした。
18歳という若さのヴァイオリン奏者、コッラード・トラブイオは、勢い余る場面もありましたが、サックスとの難解なユニゾンを正確に決めるなど、将来性を強く感じさせる演奏です。
ギターのマルコ・ロアーニャは、サンタナやヘンドリックスを思わせる佇まい。フロントにハムバッカーを搭載したテレキャスターで、枯れた歪みから透明感のあるクリーントーンまで幅広く表現し、確かなテクニックを見せました。
ベースのロベルト・カッセッタは、トレブリーな音色からファズを効かせたサウンドまで使い分け、堅実にバンドの低音を支えていました。総じて、全員が非常に高い演奏力を持つバンドだと実感します。
フリオ・キリコのドラミングは、音や動きを含めて言葉で表現するのが難しいほどの迫力です。全身全霊を込めたプレイで、滑らかなロールから大胆なダイナミクスまで、まさに超一級。
高速ストロークが続く場面でも、単なる技巧に終わらず、楽曲のグルーヴとして成立している点にはただただ感服しました。
ベッペ・クロヴェッラは、穏やかな雰囲気とは裏腹に、非常にアグレッシブなプレイヤー。ハモンドオルガン、シンセリード、メロトロン風ストリングス、Rhodes、ピアノと自在に行き来しながら、縦横無尽の演奏を展開します。
MCも主に彼が担当し、日本語を交えた温かみのあるトークで会場の空気を和ませていました。メンバー全員から、誠実で人懐こい人柄が伝わってきます。
開演は18時をやや過ぎ、終演は21時過ぎ。ほぼ3時間にわたる濃密なステージでした。
ダブルアンコールでは、この日2度目となる「Alba Mediterranea」(『Estrazioni』収録、オリジナルは『Murales』)。地中海プログレが21世紀に蘇ったかのような楽曲で、倍テンの高速4ビートが挿入される展開も印象的でした。
続けて演奏されたラストは再び「重力」。スタンディングオベーションから観客は総立ちとなり、身体を動かしながら音楽を楽しむ空気が会場を包みました。
PAバランスの影響で、ギターやボーカルが聴き取りにくい場面があった点はやや残念でしたが、それを差し引いても非常に完成度の高いライブでした。プログレバンドの公演とは思えない音量も、フリオの強烈なドラムを全身で体感できたという点では大きな魅力です。
最後に印象的だった場面をひとつ。フリオはチューブ状のものを口にくわえながら演奏していましたが、息で空気を送り、タムのチューニングを微妙に調整していたように見えました。激しい演奏の最中にそこまで行っているとすれば、驚嘆せざるを得ません。
終演後にはサイン会も行われ、フリオは大量のスティックを客席に投げ入れていました。力強くも柔らかな握手が印象に残っています。
今回の来日公演(土日の2公演)はライブレコーディングされ、CDやDVDとして発売予定とのこと。見逃した方は、ぜひ作品として体験してほしいと思います。
2005年6月12日(日) open 17:00 / start 18:00
ARTI & MESTIERI(アルティ・エ・メスティエリ)from Italy
- FURIO CHIRICO(フリオ・キリコ:Dr)
- GIUSEPPE “BEPPE” CROVELLA(ベッペ・クロヴェッラ:Key)
- ROBERTO CASSETTA(ロベルト・カッセッタ:Ba)
- CORRADO TRABUIO(コッラード・トラブイオ:Violin)
- MARCO ROAGNA(マルコ・ロアーニャ:Gt)
- ALFREDO PONISSI(アルフレード・ポニッスィ:Sax)
- MASSIMILIANO NICOLO(マッシミリアーノ・ニコロ:Vo)
