hello! progress!!

音楽の話はここで書くかもしれません

MINIMOOGって知ってますか?

今週のお題「一生モノ」

一生モノと呼べるものとは縁遠い人生を送ってきました。趣味であるカメラも所詮デジタル製品なので最新のフラッグシップモデルを買ったとしても数年経てば型落ちに…… もちろん長く使い続けることはできますが「一生モノ」ってのとはちょっと違うかな。
そんな自分にとって一生モノと呼べそうな持ち物はやはりこれかな。

「MOOG MUSIC / Minimoog Voyager Old School」。アメリカ製のアナログシンセサイザーです。2010年に購入したものなので、自分史の中では比較的新しい買い物(結婚後ですし)といった印象。所有14年。

MOOGというメーカー、楽器についてはこのあたりの記事を読んで貰うといいかも。Minimoogは鍵盤と音源の一体型で小売されたシンセサイザーでは恐らく世界初の製品で、ポピュラーミュージックの世界では伝説的な名機の1つ。

MOOGは「モーグ」と発音するのが正しいのですが、自分は未だに昔の呼び方である「ムーグ」と言ってしまいがち。Minimoogはミニムーグ。

元祖Minimoogが登場したのが1970年なので、自分が生まれる前に誕生した楽器。リック・ウェイクマンやチック・コリア、ヤン・ハマーなどのキーボーディスト(キーボードプレイヤー)が愛用したことでも知られ、1980年代のDX7全盛期にシンセサイザーの存在を認識したような自分にとっては、遠い別世界の憧れのようなビンテージシンセでした。

10代の自分がMinimoogの音に夢中になった切っ掛けはYESのリック・ウェイクマンやVOW WOWの厚見玲衣氏(MOOGといえばキース・エマーソンだけど、IIIcの印象が強くMinimoogのイメージはそこまでないですね)。ノコギリ波の鋭いシンセリードはプログレやハードロックのキーボードには欠かせない音色でした。


こちらもいかにもMinimoogらしさを感じるふくよかな矩形波のシンセリード。PFM(Premiata Forneria Marconi)のフラヴィオ・プレモリや70年代のビリー・ジョエルもよく使っていました。自分もこれ系の音が一番Minimoogらしいと感じます。


ビリー・ジョエルといえば、80年代以降ビリーのライブでキーボーディスト兼音楽監督として活躍するデヴィッド・ローゼンタールも、リッチー・ブラックモア率いるRAINBOW在籍時にかっこいいソロをMinimmoogで弾いていました。元々はドン・エイリーがポリフォニックのシンセで弾いていた印象的なパートを再現する訳でなく、敢えて古いモノフォニックシンセで弾いてみせたのは、新加入メンバーとしてのささやかな主張でしょうか。

この他にも70〜80年代に活躍したキーボーディストはMinimoogの音作りや演奏が巧みで、特にロックからフュージョンでは多くの名演が残されてますし、テクノやポップス、劇伴に至るまでありとあらゆる音楽ジャンルで使われたシンセサイザーです。
有名なT-SQUAREの「TRUTH」もMinimoogの音源をリリコン(古いウインドシンセサイザー)で鳴らしていると言われてますし、ドラえもんの劇伴にもかなりMinimoogが使われてるのでは?と聞いたことがあります(スネ夫が自慢話をするときの例の曲のメロディなどもMOOGと言われたら納得の音です)。

Minimoog的な音はその後のデジタルシンセや、90年代後半に登場したVAシンセでも鳴らすことはできたのですが、やはり本物の音の太さや存在感には敵いませんでした(ちなみに現在はソフトシンセとして本家Moog Musicを含む複数のメーカーの製品でMinimoogは再現されていて、音色もほぼ聴き分けることはできません)。
自分がバンド活動に夢中だった頃には既にMinimoogはビンテージ楽器で、当時は比較的価格が下がっていたので状態によっては30万円代から買えたと思いますが、自分にとってはまだまだ高価な機材で手が届きませんでしたし、ライブ等での実用性を考えると実際に手にすることはありませんでした。

しばら時間が流れた2000年、突如として登場したのが「Minimoog Voyager」でした。MOOGシンセの生みの親であるボブ・ムーグ氏が設計し、かつてのMinimoog Model Dを彷彿とさせる外観と音源部、メモリー機能やLCDディスプレイ、タッチコントローラー、MIDI機能を組み込んだ新世代のMinimoogとして、多くのプロミュージシャンのレコーディングやステージで使われるようになりました。
Minimoogの名手として知られるチック・コリアも、かつては本家のModel Dで弾いたソロを復活Return To ForeverではVoyagerを使って弾いていました。

Voyagerシリーズも既に生産完了していますが、今でもアーティストのステージやレコーディングでは活躍していて、ヒゲダンの「Pretender」の間奏でもピッチの少々怪しいVoyagerの音が聴くことができます。


そんなMinimoog VoyagerからMIDIやデジタル回路を取っ払った派生モデルが Minimoog Voyager Old School。結果的に70年台のMinimoog Model Dに近い純粋なアナログシンセとなり、新しいのか古いのかよく分からなくなってしまったモデルですが、社会人となって多少なり自由になるお金のあった自分にとって、ビンテージ楽器ではない自分の時代のMinimoogがようやく登場したと感じました。

2008年のNAMMショー(世界最大の楽器展示会)の「The Chicken」のデモ動画を繰り返し仕事中に見ては欲しい気持ちを高めていたのをよく覚えています。結局すぐに買えた訳ではなく、それから2年後にようやく手にすることができました。

余談ですが動画でVoyagerの下段にあるYAMAHAの初代MOTIF7は私も一時期愛用していて、VA音源を追加する拡張ボードを入れてMinimoogっぽい音を出していました。
ヤマハ | MOTIF7 - シンセサイザー - 概要

Voyagerの登場から10数年が経ち(その間にボブ・モーグ氏は亡くなり)、2017年と2022年にはオリジナルのMinimoog Model Dが完全復刻されたり(17年リイシューは50万円、22年版はなんと90万円!)、ドイツのジェネリック楽器ブランドのベリンガーからもMinimoogのオマージュモデルが格安で登場したりと、今となってはMinimoogの代わりとなる楽器を手にする上でVoyagerシリーズを選ぶ必要はなくなっているのかもしれません。ただし、Voyagerシリーズ自体が既に生産完了となっていることもあり、Model D系とは違う新たなビンテージ楽器になっていく可能性もあるでしょう。


Moog Minimoog Model D 復刻!1970年発売のミニモーグを踏襲したハンドメイド設計 – Digiland (デジランド)|島村楽器のデジタル楽器情報サイト
2022 Minimoog Model D | 再び銘機ミニモーグが復刻 – Digiland (デジランド)|島村楽器のデジタル楽器情報サイト
POLY D - 製品一覧 - ベリンガー公式ホームページ

しかし、実は私の持っているVoyager Old Schoolは殆ど使われてないのです(笑)
もちろんひと通り弾いたり音作りを楽しんだりはしましたが、18kgと重量があるのでバンドで使うこともなく(スタジオやライブに持ち出したことは一度もない)、DAWでの録音の際もMinimoogをシミュレートしたソフトシンセを使う本末転倒ぶり。10年位前に修理とオーバーホールをして貰いましたが、現在は年に数度電源を入れてオシレーターやフィルターの動作を確認する程度。


購入時はモリダイラ楽器だった輸入代理店も、その後KORG(KID)に移り、現在はMOOGが米inMusic(AlesisやAkaiを買収したとこね)の傘下となっているので、inMusic Japanの取り扱いとなっているそう。この先、故障した場合は修理はして貰えるのか……? ちょっと不安はありますが、なるべく手放すことなく持ち続けられたらと思ってます。
ニュース | Moog Music輸入代理店業務終了のご案内 | KORG (Japan)

後はやはり一度ぐらいライブで音を出したいですが、機材運搬とかセッティングを考えるとどうしても1台でなんでも賄える便利な楽器(今はNord Electro 2)を使ってしまいます。

ちなみに、Minimoogはその音の太さからシンセベースとしても伝統的に使われていて、Studio Electronics社がMIDI化してラックマウントにしたMIDIMINIを含め、80〜90年台の多くのヒット曲でも使われています。
最近知ったMOOGベースネタで驚いたのは、私世代には衝撃だったJudas Priestのアルバム『Painkiller』においてのベースパートが、なんとドン・エイリーが弾いたMinimoogだったというもの(一部イアン・ヒルの演奏も重ねられているそう)。

ミックスされた音源では全く分かりませんが、ベースのみとされるトラックを聴くと、確かにシンセベースっぽい。『Painkiller』の発表は1990年なので、もっと弾きやすい鍵盤のシンセサイザー、80年代に多く使われたDX系のFM音源シンセベースの他、サンプリングされたリアルなベース音源もあったはずですが、伝統的なMinimoogを選ぶところがなんともドン・エイリーらしいというか(それこそMIDIMINIなのかもしれませんが)。