DCPRGや東京ザヴィヌルバッハでの活動でも知られる坪口昌恭氏が、1990年代半ばに都内を中心に活動していたメインプロジェクトの1stアルバムです。1995年発表。
レコーディングメンバーは、坪口昌恭(key)、菊地成孔(sax)、水谷浩章(b)、芳垣安洋(dr, per)。さらに鬼怒無月(g)が6曲に参加しています。
細かな経緯は省きますが、当時このバンドのライブを新宿PIT INNなどで頻繁に観ていました。菊地氏と水谷氏はほぼ固定メンバーで、ドラムは外山明氏や坪口氏の弟が担当することもありました。編成としてはギターレスの形態が多く、確かサックスがいる場合はギターを入れない方針だったと記憶しています。この時点ですでに実力派として知られていたメンバーばかりですが、現在では全員が押しも押されもせぬ存在となっています。
ジャズ、フュージョン、ジャズロックなど、ジャンル分けはさほど重要ではありませんが、フュージョンやプログレに親しんでいた当時の自分にとって、このバンドは非常に強く響く存在でした。楽曲を掘り下げて聴くと、構成は複雑で緻密に作り込まれていますが、第一印象はとてもポップで親しみやすいものです。
どこかユーモラスなメロディには無国籍的な雰囲気が漂いながらも、日本的でもあり、少年時代の記憶を呼び起こすような懐かしさがあります。何より、アルバム全体から演奏者たちが音楽を楽しんでいる空気が伝わってきます。テーマの多くを担う菊地成孔氏の軽やかなソプラノサックスが、その雰囲気作りに大きく貢献しています。坪口氏はアコースティックピアノを中心に演奏していますが、シンセサイザーも効果的に用いられており、場面によってはエレクトリック・ジャズ的な印象も受けます。
変拍子のサックス・リフとマリンバのシーケンスが絡み合う「Leisure Land」、牧歌的なジャズロック調の「鉄道少年」、Mac用シーケンサーVisionのスコア反転機能から生まれた「やどかり」は、テクノロジーをアナログ的に再解釈した楽曲とも言えます。坪口氏が敬愛するJoe Zawinulが「Black Market」で用いた逆転鍵盤の発想と、どこか通じる部分も感じられます。
The Edgeを思わせるディレイ・ギターの上で、テナー・サックスと鍵盤ハーモニカが交錯する「Trihedron」は、「Song X」からの影響を感じさせる楽曲です。ラストを飾る10分超の「音楽家を裁く法律」は、導入部から中盤にかけてのスリリングな展開が印象的で、ライブでも特に楽しみなナンバーでした。Weather ReportやChick Corea Elektric Bandを想起させるセクションもあり、かつて鬼怒無月氏を含むギター入り編成で、坪口氏がRhodesとシンセサイザーに専念するライブを観た際には、まさにジャズロックバンド然としたサウンドでした。
インディーズ盤としては録音状態も良好で、特に芳垣安洋氏のドラムサウンドは非常に心地よい印象を残します。現在も入手可能かは分かりませんが、ライブ会場などで販売されている可能性はありそうです。
