先日ブルーノートでライブを鑑賞したToninho Horta繋がりということで、彼とも親交のある矢野顕子さんのアルバムを紹介します。
矢野顕子さんを聴くようになったきっかけは、やはりPat Metheny経由でした。しかし、お目当ての楽曲以外でも、彼女の独特な世界観に魅力を感じるようになりました。歌声とピアノ、歌詞が密接に絡み合った矢野ワールドは、自身の作詞・作曲にとどまりません。他アーティストとのコラボレーションにおいても、彼女の世界観とミクスチャーされて再構築されることで、新たな表情を見せてくれます。
私の場合、矢野さんのアルバムはPatやToninhoが参加しているものを中心に聴いているため、おそらく偏ったセレクトになっているとは思います。そんな中でも外せないのが、やはり本作です。
1989年発表。Pat Methenyをはじめ、Peter Erskine、Charlie Haden、Anthony Jacksonら一流のジャズミュージシャンを迎えての演奏と、坂本龍一氏によるシンセアレンジが印象的なエレポップが程よく共存している作品です。Patは「"It's For You"」「How Beautiful」「Watching You」の3曲に参加していますが、やはり白眉はアルバムのリードトラックでもある「"It's For You"」でしょう。
Pat Metheny & Lyle Mays名義によるECM時代の名作『As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls』に収録されている同名曲のカバーです。PatとLyleの出会いの証とも言えるこの曲を、矢野さんは見事に自身の世界で再構築しています。
PatのアコースティックギターとLyleの幻想的なシンセサイザーを、自らのピアノと歌(ボイス)に置き換えたアレンジは、オリジナルのスケール感を損なうことがありません。単なるカバーに留まらない、実に感動的な仕上がりです。Peter ErskineとCharlie Hadenの好サポートも光りますが、後半に登場するPatの流れるようなソロは、作曲者としてこの素敵なカバーを讃え、感謝しているかのようにも聴こえます。
この1曲のためだけにアルバムを聴く価値は十分にあると断言できますが、最後まで緩やかな流れで味わい深く聴かせてくれる作品です。「Little Girl, Giant Heart」の存在感がアルバムのラストをぐっと引き締めています。
個人的に矢野顕子さんのCDは、家でくつろぎながらBGM的に流していることが多いのですが、難しいことは考えずにぼーっと聴いているのが心地よいですね。矢野さん独特の歌詞世界が好きな方も多いと思いますが、私はどちらかというと、歌に耳を傾けるというよりは、声を楽器のひとつとして聴いている感覚に近いかもしれません。
