hello! progress!!

音楽の話はここで書くかもしれません

MINIMOOGって知ってますか?

今週のお題「一生モノ」

一生モノと呼べるものとは縁遠い人生を送ってきました。趣味であるカメラも所詮デジタル製品なので最新のフラッグシップモデルを買ったとしても数年経てば型落ちに…… もちろん長く使い続けることはできますが「一生モノ」ってのとはちょっと違うかな。
そんな自分にとって一生モノと呼べそうな持ち物はやはりこれかな。

「MOOG MUSIC / Minimoog Voyager Old School」。アメリカ製のアナログシンセサイザーです。2010年に購入したものなので、自分史の中では比較的新しい買い物(結婚後ですし)といった印象。所有14年。

MOOGというメーカー、楽器についてはこのあたりの記事を読んで貰うといいかも。Minimoogは鍵盤と音源の一体型で小売されたシンセサイザーでは恐らく世界初の製品で、ポピュラーミュージックの世界では伝説的な名機の1つ。

MOOGは「モーグ」と発音するのが正しいのですが、自分は未だに昔の呼び方である「ムーグ」と言ってしまいがち。Minimoogはミニムーグ。

元祖Minimoogが登場したのが1970年なので、自分が生まれる前に誕生した楽器。リック・ウェイクマンやチック・コリア、ヤン・ハマーなどのキーボーディスト(キーボードプレイヤー)が愛用したことでも知られ、1980年代のDX7全盛期にシンセサイザーの存在を認識したような自分にとっては、遠い別世界の憧れのようなビンテージシンセでした。

10代の自分がMinimoogの音に夢中になった切っ掛けはYESのリック・ウェイクマンやVOW WOWの厚見玲衣氏(MOOGといえばキース・エマーソンだけど、IIIcの印象が強くMinimoogのイメージはそこまでないですね)。ノコギリ波の鋭いシンセリードはプログレやハードロックのキーボードには欠かせない音色でした。


こちらもいかにもMinimoogらしさを感じるふくよかな矩形波のシンセリード。PFM(Premiata Forneria Marconi)のフラヴィオ・プレモリや70年代のビリー・ジョエルもよく使っていました。自分もこれ系の音が一番Minimoogらしいと感じます。


ビリー・ジョエルといえば、80年代以降ビリーのライブでキーボーディスト兼音楽監督として活躍するデヴィッド・ローゼンタールも、リッチー・ブラックモア率いるRAINBOW在籍時にかっこいいソロをMinimmoogで弾いていました。元々はドン・エイリーがポリフォニックのシンセで弾いていた印象的なパートを再現する訳でなく、敢えて古いモノフォニックシンセで弾いてみせたのは、新加入メンバーとしてのささやかな主張でしょうか。

この他にも70〜80年代に活躍したキーボーディストはMinimoogの音作りや演奏が巧みで、特にロックからフュージョンでは多くの名演が残されてますし、テクノやポップス、劇伴に至るまでありとあらゆる音楽ジャンルで使われたシンセサイザーです。
有名なT-SQUAREの「TRUTH」もMinimoogの音源をリリコン(古いウインドシンセサイザー)で鳴らしていると言われてますし、ドラえもんの劇伴にもかなりMinimoogが使われてるのでは?と聞いたことがあります(スネ夫が自慢話をするときの例の曲のメロディなどもMOOGと言われたら納得の音です)。

Minimoog的な音はその後のデジタルシンセや、90年代後半に登場したVAシンセでも鳴らすことはできたのですが、やはり本物の音の太さや存在感には敵いませんでした(ちなみに現在はソフトシンセとして本家Moog Musicを含む複数のメーカーの製品でMinimoogは再現されていて、音色もほぼ聴き分けることはできません)。
自分がバンド活動に夢中だった頃には既にMinimoogはビンテージ楽器で、当時は比較的価格が下がっていたので状態によっては30万円代から買えたと思いますが、自分にとってはまだまだ高価な機材で手が届きませんでしたし、ライブ等での実用性を考えると実際に手にすることはありませんでした。

しばら時間が流れた2000年、突如として登場したのが「Minimoog Voyager」でした。MOOGシンセの生みの親であるボブ・ムーグ氏が設計し、かつてのMinimoog Model Dを彷彿とさせる外観と音源部、メモリー機能やLCDディスプレイ、タッチコントローラー、MIDI機能を組み込んだ新世代のMinimoogとして、多くのプロミュージシャンのレコーディングやステージで使われるようになりました。
Minimoogの名手として知られるチック・コリアも、かつては本家のModel Dで弾いたソロを復活Return To ForeverではVoyagerを使って弾いていました。

Voyagerシリーズも既に生産完了していますが、今でもアーティストのステージやレコーディングでは活躍していて、ヒゲダンの「Pretender」の間奏でもピッチの少々怪しいVoyagerの音が聴くことができます。


そんなMinimoog VoyagerからMIDIやデジタル回路を取っ払った派生モデルが Minimoog Voyager Old School。結果的に70年台のMinimoog Model Dに近い純粋なアナログシンセとなり、新しいのか古いのかよく分からなくなってしまったモデルですが、社会人となって多少なり自由になるお金のあった自分にとって、ビンテージ楽器ではない自分の時代のMinimoogがようやく登場したと感じました。

2008年のNAMMショー(世界最大の楽器展示会)の「The Chicken」のデモ動画を繰り返し仕事中に見ては欲しい気持ちを高めていたのをよく覚えています。結局すぐに買えた訳ではなく、それから2年後にようやく手にすることができました。

余談ですが動画でVoyagerの下段にあるYAMAHAの初代MOTIF7は私も一時期愛用していて、VA音源を追加する拡張ボードを入れてMinimoogっぽい音を出していました。
ヤマハ | MOTIF7 - シンセサイザー - 概要

Voyagerの登場から10数年が経ち(その間にボブ・モーグ氏は亡くなり)、2017年と2022年にはオリジナルのMinimoog Model Dが完全復刻されたり(17年リイシューは50万円、22年版はなんと90万円!)、ドイツのジェネリック楽器ブランドのベリンガーからもMinimoogのオマージュモデルが格安で登場したりと、今となってはMinimoogの代わりとなる楽器を手にする上でVoyagerシリーズを選ぶ必要はなくなっているのかもしれません。ただし、Voyagerシリーズ自体が既に生産完了となっていることもあり、Model D系とは違う新たなビンテージ楽器になっていく可能性もあるでしょう。


Moog Minimoog Model D 復刻!1970年発売のミニモーグを踏襲したハンドメイド設計 – Digiland (デジランド)|島村楽器のデジタル楽器情報サイト
2022 Minimoog Model D | 再び銘機ミニモーグが復刻 – Digiland (デジランド)|島村楽器のデジタル楽器情報サイト
POLY D - 製品一覧 - ベリンガー公式ホームページ

しかし、実は私の持っているVoyager Old Schoolは殆ど使われてないのです(笑)
もちろんひと通り弾いたり音作りを楽しんだりはしましたが、18kgと重量があるのでバンドで使うこともなく(スタジオやライブに持ち出したことは一度もない)、DAWでの録音の際もMinimoogをシミュレートしたソフトシンセを使う本末転倒ぶり。10年位前に修理とオーバーホールをして貰いましたが、現在は年に数度電源を入れてオシレーターやフィルターの動作を確認する程度。


購入時はモリダイラ楽器だった輸入代理店も、その後KORG(KID)に移り、現在はMOOGが米inMusic(AlesisやAkaiを買収したとこね)の傘下となっているので、inMusic Japanの取り扱いとなっているそう。この先、故障した場合は修理はして貰えるのか……? ちょっと不安はありますが、なるべく手放すことなく持ち続けられたらと思ってます。
ニュース | Moog Music輸入代理店業務終了のご案内 | KORG (Japan)

後はやはり一度ぐらいライブで音を出したいですが、機材運搬とかセッティングを考えるとどうしても1台でなんでも賄える便利な楽器(今はNord Electro 2)を使ってしまいます。

ちなみに、Minimoogはその音の太さからシンセベースとしても伝統的に使われていて、Studio Electronics社がMIDI化してラックマウントにしたMIDIMINIを含め、80〜90年台の多くのヒット曲でも使われています。
最近知ったMOOGベースネタで驚いたのは、私世代には衝撃だったJudas Priestのアルバム『Painkiller』においてのベースパートが、なんとドン・エイリーが弾いたMinimoogだったというもの(一部イアン・ヒルの演奏も重ねられているそう)。

ミックスされた音源では全く分かりませんが、ベースのみとされるトラックを聴くと、確かにシンセベースっぽい。『Painkiller』の発表は1990年なので、もっと弾きやすい鍵盤のシンセサイザー、80年代に多く使われたDX系のFM音源シンセベースの他、サンプリングされたリアルなベース音源もあったはずですが、伝統的なMinimoogを選ぶところがなんともドン・エイリーらしいというか(それこそMIDIMINIなのかもしれませんが)。


2023年1月、ギター歴1ヶ月の記録

ジェク・ベックの件はまた改めて。とてもショックです。

* *

特別お題「わたしの2022年・2023年にやりたいこと

昨年の12月からギターを始めてそろそろ1ヶ月になります。2023年にやりたいことは引き続きエレキギターの練習。毎日なるべく1時間程度はギターに触るようにしたいのですが、結局時間が取れなかったりでなかなかに上達は進みません。

左手の指の先は固くなって最初に比べたら押弦は少し楽になったものの、相変わらず指の動きがぎこちなく、本当にこの先指がスムーズに動くようになるのか……?と絶望的な気持ちになります(時間と体力、集中力が有り余ってる10代の頃に1日8時間とか練習してようやく上達する楽器では!?と思ってしまった)。
左手の運指は押弦も難しければ、右手のピッキングにしても、そもそもストロークって思っていた以上に難しい。一定の腕振りのオモテとウラを意識しながら任意のタイミングにだけ弦に当てるって、ギタリストってこんな難しいことをしていたんですね!

バンドのギタリスト、こんな難しい楽器を弾いていたのか、尊敬するぜ。


記録がてらに練習の様子をTwitterに上げていたので記録として貼っておきます。
半年〜1年後にこれが笑える程度には上達していて欲しいけど、思った以上に亀の歩みなので本当に弾けるようになるだろうか?

コードが弾けたらBilly Joel「The Entertainer」の伴奏ができるじゃん(上でシンセを弾けるじゃん)と思ってちょっとやってみた。このストロークはオモテウラを無視して腕を上下するだけのダメなやつ。

オリジナルのようなさらに16分の入ったストロークができるようになるのはいつのことか……。この曲はコード進行が1つのパターンの繰り返しなので練習中。ストロークもコードチェンジもまだまだ全然ダメです。

コードチェンジが少しできるようになった。ストロークもせずただコードをジャラーンと鳴らすだけ。好きな曲に合わせて弾けるようになると楽しくなる。このために今までちゃんとコピーしたことのなかった「Wait For Sleep」のピアノをコピーしました(無駄が多いな)。

GarageBandで録音してみた(2コーラス目のピアノ伴奏、本当は6/8になるのを忘れて変拍子のパターンのまま弾いてる)

Def Leppard「Hysteria」も少しやってる。この辺の有名曲はYouTubeに弾き方指南の動画がたくさんあるので、教材には一切こまらない。

ギターじゃないけど、なんとなく動画を撮ってみたVELVET PAW「Soarer」のシンセソロ。過去のライブ動画がYouTubeに色々と上がっていることに気づいて昨年ふとコピーしてみました。最近弾いてなかったので指がもつれてるけど、エマーソンばりのかっこいいソロなのです。

Soarer

Soarer

  • VELVET PAW
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

YouTubeのギター初心者向け動画はかなり参考にさせて貰っていて、主なものをTwitterのスレッドにまとめてます。中でも萩原悠ギター教室さんにはめちゃお世話になってます

* *

一昨日、ふと「哀しみの恋人達」の頭を弾いてみようと思い切りチョーキングしたら弦が切れてしまったので、先程弦交換しました。この前も1弦チョーキングしたらボールエンドで弦が切れたので、ブリッジというか弦の固定部分に何か問題あるのかな? もう少しちゃんとしたギターが早く欲しくなります。

初めて生で見たジェフ・ベックは1999年の東京国際フォーラムでした。

30年越しの願い!? エレキギターを弾けるようになりたいと思った(n年ぶりn回目)

突然ですが今週からエレキギターの練習を始めました。

切っ掛けはアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』。とても面白い。

同じ女子高生バンド作品の『けいおん!』に比べてもガチめ設定なバンドマン作品で、演奏シーンの作り込みの丁寧さとか、そもそも『けいおん!』から10年以上経っていることに驚いたりとか……。
主人公のぼっちちゃんこと後藤ひとりが父親から借りてるギターが黒のGibson レスポールカスタムで、現実にEpiphoneの黒レスカスが売れてるらしい…… なんてけいおん!世代(世代とは?)には既視感のある人気ぶりなども。今日はジョン・サイクスの話はしません。

作中のぼっちちゃんのコミュ障ぶりはかなり強烈ですが、そういえば自分の地元にも「四畳半のスーパーギタリスト」的に呼ばれてる(失礼だ)無口だけどギターがとても上手いお兄さんがいて(フェイバリットギタリストはアラン・ホールズワース)、ライブや学祭に引っ張り出して一緒にイングヴェイを演ったりしたことを思い出しました。

で、ギターです。
「ギター、カッコいいな! 自分も弾けたらいいな!」とはずっと思っていました。
ただし、昔は鍵盤を弾くことがとにかく楽しかったし、もっと上手くなりたかった。何よりキーボードプレイヤーとしてギタリストと一緒に演奏することが楽しかった。当時憧れだったのはジェフ・ベックとヤン・ハマー、イングヴェイ・マルムスティーンとイェンス・ヨハンソンのような火花散るソロバトルを繰り広げるギタリストとキーボーディストの関係。
当時の自分はキーボードでギーターヒーローになりたかった。だからデレク・シェリニアンの気持ちは良く分かる!?


これまでもなんどかギターに挑戦する機会はありました。バンド活動では常に周りに上手いギタリストがいたし、仕事でも多くの素晴らしいギタリストと共同作業をさせて貰う機会に恵まれました。仕事で長らくギター周辺に関わっていたので、知識だけならばちょっとしたギタリスト並かも!?

ギターを抱えて音を出す程度の機会なら常にあったし、教えて貰うことだってできたかもしれない。でも結局やらなかったし続かなかった。凄腕のギタリストを近くでたくさん見ていたので、目標のハードルが高すぎたのかもしれない。
そして現在。ギターを始めるにはかなり歳を取ってしまいましたが、人生遅すぎるなんてことはないのだ!!

実はエレキギターは持っています。
10年ぐらい前、御茶ノ水の楽器屋で中古が安く売られているを見てなんとなく買ってしまったSpirit by STEINBERGERの「GU-Deluxe」。
自分は左利きなので0フレット仕様のギターなら弦をジミヘン張りしてレフティモデルとして使えるのでは……? なんて考えだった気がします(でもよく考ると鍵盤は普通に弾いてるし、なんなら運指練習をサボった左手より右手の方が動くぐらいなので、スタート地の利き手はあまり関係ないかも)。
あと、STEINBERGERといえばホールズワース先生は当然として、White Lionのヴィト・ブラッタが好きだった。

ABWHでSteve Howeが使っていたのも印象深い。

ギターアンプも当時、RolandのMICRO CUBEを買いました。アンプシミュレーターとエフェクターが付いているやつ。音叉の音も鳴らせる。結局使った記憶は殆どないけども。大げさでなく三日坊主にすらなってない。

ということで、改めて弦を張り直し。当時買った弦の在庫は全てサビサビだったので(弦ってパッケージの中でサビるのね、ビックリした!)Amazonで買いました。ちなみにダブルボールエンド弦でなく、普通の弦を貼るためのアダプター(ロックナットみたいなやつ)も当時一緒に買っていたのでした。そこまで買って一切続けなかった自分すごい。

ずっと自宅にいるからと日中に練習をすると他が手につかなくなるので、一応夕方以降と週末だけと決めて。練習を初めて4日目。なんとか今回は三日坊主は回避できました。

まだろくにコードも弾けないしスケール運指も全然な状態。バンドや録音なんて遠い未来のようだけど、今度こそもう少し続けて簡単なバッキングぐらいは弾けるようになりたい。

STEINBERGERタイプのギターに普通の弦を貼るアダプター

挫折せずに1年、いや半年でも続けられて少し弾けるようになったら、このアンシミュ内蔵のワイヤレスヘッドホン(何やらすごいらしい?)が欲しいかも。このヘッドホンの面白さが分かるぐらいにギターが弾けるようになるのが今の目標です!?

ライル・メイズの音楽と思い出

チック・コリアの思い出を書いたら、ライル・メイズについても語りたくなってしまったので勢いに任せて書いてみます。

昨年、とても辛いあるミュージシャンとの別れがありました。
2020年2月10日にこの世を去ったピアニスト、作曲家のライル・メイズ(Lyle Mays)。66歳、とても早すぎる死でした。ジャズの世界では間違いなくビッグネームのひとりであるライル・メイズですが、一般的にはそこまで名前が知られている訳でなく、チック・コリアのようにその訃報が大きく報じられることはなかったように記憶してます。
私自身、最近はここ数年は以前ほど音楽関連のニュースを追っていなかったこともあり、そのことを知ったのは数日が経ってから。知人たちとの食事の席で、音楽の話題で盛り上がった初対面の方から話を聞かされ、驚きつつスマートフォンで検索、ショックのあまりしばらく放心状態でした。

ライルの活動としても最も広く知られているのは、ギタリストのパット・メセニーが率いたパット・メセニー・グループ(Pat Metheny Group:以下“PMG”と表記)メンバーとしてでしょう。グループ名にパット・メセニーの名前入っていることから分かるようにグループリーダーは確かにパットなのですが、このグループの音楽的な世界観を構築する上で欠かせなかったのが、このライル・メイズという音楽家の存在。ライルの最初のソロアルバム『Lyle Mays』より「Highland Aire」、PMGのサウンドをご存知の方ならば、あの世界をどれだけライルが支えていたかがすぐお分かりになることかと思います。

www.youtube.com

このライル・メイズと私の出会いは当然、大ファンでもあるパット・メセニー・グループなのですが、その名前を知ったのはもう少し前のこと。1992年頃のJTのテレビCM(Peace Lights BOX)で、ブルーの背景をバックにガットギターでボロディンの「ダッタン人の踊り」(のカバー曲「アズール」)を弾いていたジャズ・ギタリストの天野清継氏、40代以上の人なら覚えているかもしれません。今では考えられませんが、当時はこんなオシャレなタバコのCMがあったのです……。

www.youtube.com

当時まだ高校生だった私もその大人っぽい雰囲気に惹かれたのか、この曲が収録された天野清継氏のデビューアルバム『Azure』を購入。当時買っていた音楽雑誌(『キーボード・マガジン』か『キーボード・スペシャル』)に天野氏の共同制作者でもあるジャズ・ピアニスト国府弘子のインタビューが掲載されいて、そこで国府氏のフェイバリット音楽家として名前が上がっていたのがライル・メイズでした(掲載順序は覚えてないのですが、ライルと国府さんの対談もあったはず)。
ギタリストの天野氏とピアニストの国府氏、この2人の関係はまさにパット・メセニーとライル・メイズのそれと重なるもので(今にして思えば「Azure」の伴奏も「Phase Dance」っぽい?)、インタビューでも確かパットとライルのパートナーシップを理想としている…… 的な話が語られていたように記憶しています(記憶違いでしたら申し訳ない)。

www.youtube.com

当時の自分にとってギタリストとピアニスト(キーボーディスト)の理想的な関係といえば、ジェフ・ベックとヤン・ハマー(あるいはイングヴェイ・マルムスティーンとイェンス・ヨハンソン)のように激しく火花を散らすソロバトルを繰り広げるものであり、自らが表に立つ訳でなくバンドの世界観の構築に献身的なピアニストと自由奔放なギタリストという構図は(これは完全に誤解ですが)そこまで心惹かれるものではありませんでした。若かったのです……。

www.youtube.com

……そんな自分もいつしかパット・メセニーの音楽にのめり込むようになり、改めてこのライル・メイズの存在の大きさを知るようになるのですが、パットやライルについて語ると永遠に終わらないので、ライルと私個人の思い出に絞ってもう少し……。

ライル・メイズという音楽家はピアニスト、作曲家としても卓越していましたが、シンセサイザーやサンプラー、シンクラヴィアなど最新機材の扱いに長けたアーティストで、その特徴的なシンセサイザーのサウンドはライル自身のみならずグループ(PMG)のトレードマークになっていたほど。特にライルのシグネチャートーンとも言える木管楽器のようなシンセリード。初期はオーバーハイム社のアナログシンセを使っていたとされるこの音色は、後に市販デジタルシンセのプリセットサウンドに、「LM Lead」のようなパッチネームで搭載されるほどの定番サウンドとなっています。

パットとライル、ふたりの名義によるアルバム『As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls』収録の「It's For You」はこの音色が使われた代表曲のひとつ(下の動画の最初に演奏されている曲が「It's For You」。シンセリードを担当するオーバーハイム(4 or 8-Voice)やシーケンシャルサーキットのProphet-5を操るライルの姿を見ることができます)。

www.youtube.com

パット・メセニーと親交のある矢野顕子のアルバム『WELCOME BACK』にはこの曲のカバーが収録され、原曲でライルが奏でたシンセリードは矢野さんの声により歌い上げられています。ギターはパット・メセニー本人が参加。

www.youtube.com

時代によってこの音を奏でたシンセは何度か変遷しているのですが、1980年代の中頃から90年代にかけてライル・メイズが使っていたのがRoland社のJX-10(Super JX)。後になって私自身も単純なファン心理からこのシンセを中古で購入し、実際に殆ど使うことはなかったのですが、今も実家に保管してあります。本当にただのファンアイテムです。

f:id:OKP:20210214174631j:plain
実家に置きっぱなしですがどうしたものか……

この動画でライルのグランドピアノの上に載っているのがJX-10。

www.youtube.com

私が最初にPMGのアルバムを買ったのは95年の『We Live Here』ですが、そこから熱心なファンになるまでもう少し時間がかかり、実際に生で見たのは2005年のアルバム『The Way Up』のツアーによる来日公演でした(生パットはもう少し前にソロ等で見ていました)。結果的にこの『The Way Up』がPMGの最後のオリジナルアルバムとなってしまい、何度か機会があった90年代の来日を見ていなかったことを大いに後悔するのですが、とにかくこの東京国際フォーラムで見たThe Way Up Tourが衝撃的に素晴らしく、公演中何度も客席で涙を流したことを今でも覚えています。

このツアーの韓国公演は映像化もされているので、ぜひ多くの人に見て欲しい作品。1曲68分の壮大な音絵巻。始めてこのアルバムを聴いた際にも、1時間が一瞬のうちに過ぎ去るかの時間感覚を失ったかの衝撃を受けましたが、この曲が目の前で演奏される現場に居ることができたのは本当に幸せな体験でした。

www.youtube.com

The Way Up Tourを最後にPMGはほぼ休止状態となるのですが、2008年から2009年にかけて一度PGMが最小限編成の4人でツアーを行ったことがあり、日本のブルーノート東京でも来日公演を行いました(内容は懐メロ祭り的なものでしたが)。私はこの公演に2回行くことができたのですが、うち1回はライルのブースの真横でライルがピアノやシンセ(KORG TRINITY plus)、オートハープを操る姿を夢見心地で眺めていました。このときの懐メロPMG、日本以外でもツアーを行っていたはずなのですが、殆ど映像が残ってないのが残念です……。

パット・メセニーは非常にアグレッシブな音楽家なので、その後も何度も目にする機会があったのですが、ライル・メイズの方はあまり表舞台に出たがらないタイプなのか、PMGの活動が鳴りを潜めてからはほぼその活動を耳にすることがなくなりました。
2013年にパットが発表した『The Orchestrion Project』ではシーケンサーで同期する生楽器の自動演奏(説明が難しいので映像を見てください)でPMGを思わせるサウンドをパットひとりで作り上げてしまい、この頃のライルはオーケストリオンに関してコメントを求められることにかなりナーバスだったという話も耳にしています(あるインタビューが途中で中止になったとも)。

www.youtube.com

余談ですが、オーケストリオンの来日コンサートも素晴らしかった! 最後にはPMGの曲(Stranger In Town)もやってくれたし……。
余談ついでにテレ東の音楽バラエティ『タモリの音楽は世界だ』にパット・メセニーとPMGが出演して、この「Stranger In Town」を演奏したことがあります(恐らく95年のWe Live Here Tourのタイミング。ドラマー、ポール・ワーティコの奥さんが産気づいたため急遽帰国し、トラでジョナサン・ジョセフが叩いている…… のだと思います)。出演の経緯は分かりませんが、機材もとてもシンプルでパットのアンプはJC、ライルはアコピのみ、スティーブ・ロドビーも珍しくエレベを弾いています。

www.youtube.com

私が久々にライルの姿を目にしたのは、2011年にカリフォルニア工科大学で開催されたTEDxCaltechへの出演。コンピューターを用いた実験的な即興演奏の映像が配信されたのですが、この演奏も非常に素晴らしく一時はこのグループでのレコーディングがないものかと期待をしていました(もしかしたらこの演奏が、公式なライル・メイズの最後の演奏活動かもしれません)。

www.youtube.com

音源では2016年に突然、発売されたライル・メイズ・カルテットの2枚組ライブアルバム『The Ludwigsburg Concert』。録音は1993年のもので、メンバーは マーク・ジョンソン、ボブ・シェパード、マーク・ウォーカー。演奏されているのはこの同年にリリースされたアルバム『Fictionary』からの曲が中心。この『Fictionary』ですが、PMGでの縁の下の力持ち的存在やテクノロジー巧者であるライルのイメージとは少し異なる(?)ジャズ・ピアニストとしてのライル・メイズの一面を存分に楽しむことができる作品。知的でリリカル、ときに鮮やかに歌い上げるライルのピアノを堪能することができます。

www.youtube.com

もちろんこのライブ盤も聴き応え抜群で、ここ数年は年に何度か聴き返す愛聴盤になっていたのですが、遂に新たなライルの音楽、演奏を聴くことなく、旅立ってしまいました。
私自身いつの間に歳を重ね、若い頃から好きだったミュージシャンが亡くなってしまうことが増えましたが、ライルの死による喪失感はとても大きく、未だに心に大きな穴が空いてしまったような状態。ましてや長年の盟友だったパットが大丈夫なのか、ファンとしても心配でなりません。

先程余談として貼った『タモリの音楽は世界だ』動画の中で俳優の佐野史郎がジョニ・ミッチェルのライブ盤『Shadows and Light』(恐らく世界一バックバンドが豪華なライブ)の話題を出してしますが、この名作ライブで演奏していたメンバーのジャコ、マイケル・ブレッカー、ドン・アライアスに次いで、ライルまでも鬼籍に入ってしまいました。残りのメンバーを呼び寄せるのは当分先のことにして貰うことにして、今しばらくはカルテットでのセッションを楽しんで欲しいものです。

www.youtube.com

ライル・メイズの思い出は全く語り足りてないのですが、少々長くなってしまったので今回はこの辺で。
最後にライルのサイドワークの中から好きな1枚を紹介。PMGの『The Way Up』にも参加していたブラジルのギタリスト、ナンド・ローリアのアルバム『Points Of View』にライルが参加しています。全曲ではないのですが、とにかく存在感が抜群でピアノを聴けばすぐに分かります。ペドロ・アスナール在籍時のPMGやトニーニョ・オルタを彷彿とさせるサウンドで夏になると聴きたくなる作品です。

www.youtube.com

STREET DREAMS

STREET DREAMS

  • アーティスト:Lyle Mays
  • 発売日: 1993/03/25
  • メディア: CD
Fictionary

Fictionary

デジタルだけど楽器としての温かみを感じる赤いキーボード

今週のお題に参加してみます(今週のお題「愛用しているもの」)。

カメラに釣り、登山と物欲絡みまくりな趣味を持つ自分にとっての“愛用しているもの”は色々とあるのですが、今回は丁度使っている最中のこちら。久々に始めたバンド活動において欠かせない相棒です。
f:id:OKP:20151101192844j:plain
Nord Keyboardsの「Nord Stage 2 SW73」、スウェーデンの楽器メーカーClavia(クラヴィア)社のデジタルシンセサイザーです。「Nord Keyboards」はClaviaの鍵盤楽器のブランド名になります。
現在のバンドでは、このキーボード1台のみで全ての演奏を賄っています。
f:id:OKP:20151101192842j:plain
Clavia社の歴史やNord Keyboardsの歴史については、国内代理店であるKORGのサイトを見ていただくのが分かりやすいかと思います。
Nordの歴史 | Nord (ノード)

同社の「Nord Lead」(ノードリード)というシンセサイザーが登場したのが丁度20年前。当時、シンセサイザーといえば一部を覗いて日本の楽器メーカーの寡占状態で、テレビの音楽番組やライブステージで目にする楽器は国内外を問わず、YAMAHAKORGRoland社という日本のメーカーの製品ばかり。そんな中、突如として真っ赤なキーボードが北欧スウェーデンから登場して、瞬く間に市場を席巻していったのですから、そのインパクトは相当なものでした。
f:id:OKP:20151101192841j:plain
…という楽器についての細かい説明は今回はおいときますが、私も10年位前からこのNordのキーボードを愛用しております。

単純に価格性能比だけで見たら今の国産シンセにももっとコスパの高い製品はたくさんあるんです。できることも今時のシンセにしてはかなり限定されていますし、本体のメモリー容量が特別多い訳でもありません。ディスプレイだって「20年前の楽器かよ…」ってぐらい小さいですしね。
f:id:OKP:20151101192843j:plain
でも、私はこのメーカーのキーボードが好きなんです。

ぶっちゃけてしまうと「赤くて格好いいから」というのが一番の理由なのかもしれませんが(笑)、そんな見た目も含めこのメーカーの鍵盤には「楽器」としての魅力があるんです。
f:id:OKP:20151101192840j:plain
ギターや管楽器のようなアナログの発音原理を持たない、電子部品やプログラムの組み合わせからなるデジタルシンセサイザー(キーボード)。もちろん、各メーカー様々な信念を持って楽器としての個性を吹き込んでいるのですが、個人的にこの赤い電子楽器からは生楽器に通じるような温かみのようなものも感じているのです。
f:id:OKP:20151101192839j:plain
…なんてことを書いてますが、実際はこの10年で4台のNordを乗り継いできている私。
愛器と呼ぶにはどれも付き合いが短すぎるように思われてしまうかもしれません。なんせ、ロリー・ギャラガーやSRVたちのギターのような付き合いは電子楽器とはできませんしね(笑)。
f:id:OKP:20151101192845j:plain
それでも、初めてNordのキーボードを弾いたときの感動だったり驚きは、現在使っているこの鍵盤にもしっかり受け継がれています。使い始めてそろそろ2年が経ちますが、これからもいい相棒になってくれることでしょう。

まあ、現実的に当分は楽器の買い換えなんてとても無理(円安となってしまった現在は得に)、ということもあるのですけどね(笑)。

今年発表されたばかりのリニューアル機である「EX」。Nord Stage 2 SW73においての不満だった鍵盤の最低音がFだった点が、半音下のEになったことは羨ましい限りですが、まだまだ今の楽器はあと5年は使う覚悟ですよ。

「ライフワークは音楽 電子楽器の開発にかけた夢」梯郁太郎

ローランド創業者による日本の電子楽器史

日本を代表する電子楽器メーカー、ローランドの創業者であり電子楽器の技術者として、国内のシンセサイザーの発展に大きく貢献、さらにはMIDI規格の制定にも大きな貢献を果たした梯 郁太郎誌による、自叙伝でもあり日本の電子楽器開発の歴史ともいえる一冊。
現在では一線を退きながらも経営者としての手腕が話題にされることが多かった梯氏だが、本書を読むといかに音楽を愛し、新たな電子楽器を生み出すことに情熱を注いでいたかが伝わってくる。
ハモンド・オルガンの演奏に欠かせないレスリー・スピーカーの生みの親であるドン・スレリー氏やドラムヘッドのレモ社社長、レモ・ベリー氏、作曲家であり日本のシンセサイザーの父、冨田勲氏との対談も非常に興味深い。

ちなみに本書の発行は2001年だが、2013年に梯氏がグラミー賞(テクニカル・アワード)を受賞した経緯もあってか、2013年に「サンプルのない時代」と改題された増補改訂版が発行されている。

関連作品

職人的な興味から楽器製造へのめり込み、現在のヤマハとなる日本楽器を創業した山葉寅楠氏とは同じ楽器メーカー創始者としても、随分とタイプが異なるのも面白い。個人的にはKORG創業者である、加藤孟氏の伝記なども読んでみたい。

helloprog.hateblo.jp

MOON SAFARI MEGA MOON JAPAN TOUR 2014@TSUTAYA O-WEST/2014.10.23(wed.) 19:00〜

前日に引き続きMoon Safari単独来日公演の2日目。この日はオールスタンディングということで前日よりさらに1時間以上仕事を早く切り上げて会場へと向かいます。
f:id:OKP:20141025094412j:plain
比較的若い番号を持っていたおかげで(チケット発売日は仕事だったので目黒まで買いに行ってくれた奥さんに感謝!)、サイモン前あたりの2〜3列目付近をゲット。それからの1時間の待ちがややキツかったですが(歳のせいか、オールスタンディングの開演前が最近辛いw)、開演してからの2時間は前日同様にあっと言う間! それにしても本編60分弱で、アンコールが同じだけあるというのは、なんなのでしょう(笑)

セットリストは以下の通り。初日に比べて「Himlabacken Vol.1」からの曲が更に減ってしまいましたが、大好きな2ndからのインストナンバー「Moonwalk」を演ってくれたのが個人的にはかなりの感激ポイント。アンコールの1曲目には1stから「パラッパッパ♪〜」の「Dance Across The Ocean」も披露。そして大作LE pt3の後に、「Constant Bloom」〜「Methuselah's Children」という前日同様の〆。もう少し内容を変更してくるかな?とも思いましたが、何度聴いてもいい曲はいいものですので。
ただ、気のせいかこの日はメンバー紹介をしなかったような…?(笑) 「Yasgur's Farm」の中でやらなかったので忘れてしまったのでしょうか。

Setlist 2014.10.23

  1. Kids(se)
  2. Too Young To Say Goodbye
  3. Heartland
  4. Moonwalk
  5. Mega Moon
  6. Yasgur's Farm
  7. A Kid Called Panic
  8. Dance Across The Ocean(encore)
  9. Lover's End Pt.III: Skellefteå Serenade(encore)
  10. Constant Bloom(encore)
  11. Methuselah's Children(encore)


Simon Åkesson/サイモン・オーケソン(vo, key)
Petter Sandström/ペター・サンドストロム(vo, g)
Pontus Åkesson/ポンタス・オーケソン(g, vo)
Johan Westerlund/ヨハン・ウェスタールンド(b, vo)
Tobias Lundgren/トビアス・ラングレン(ds)
Sebastian Åkesson/セバスチャン・オーケソン(key, vo)

ライヴ・イン・メキシコ

ライヴ・イン・メキシコ

http://www.marquee.co.jp/avalon/moonsafari.html
最新アルバム「Live In Mexico」は後から聴いたのですが、なかなか良い感じのライブ反芻アイテムとなってますね。曲順は2日目のものと近くなっております。

自分のツイートよりメンバーについての言及など

ということで今回も私のどうでもいい感想ツイートより。

ペター・サンドストロム(vo, g)


ペター氏はあのイケメン集団の中でやや個性的な風貌ながら(失敬)、彼のアグレッシブなステージアクションがライブの楽しさを引き立てていたと思います。昨年のフェスのときにはあんなに動くイメージなかったのですし、YouTubeの動画などでもあの動きは見たことがなかった気がするので、本人の中で何かステージに対して意識の変化があったのでしょうか。

The River st. Blues

The River st. Blues

  • アーティスト: Petter Sandström
  • 出版社/メーカー: A West Side Fabrication - X5 Music Group
  • 発売日: 2012/11/13
  • メディア: MP3 ダウンロード
  • この商品を含むブログを見る
ソロ活動ではかなりストレートなポップスを演っております。Moon Safariではややメタルシンガーライクなサイモンの歌唱の対比が非常にいいアクセントになっていますね。
ライブでも決して抜群に歌唱が安定している訳ではないのですが(その辺はサイモンの方が安定してますね)彼がいなかったらここまでこのバンドは好きにならなかったかもななぁ…。

サイモン・オーケソン(vo, key)







実際、彼らの演奏はちょっとしたミスは結構あるのですが、あまりそこは気にならなかったのですよね。やはり曲が良いってのは本当に強い。

ポンタス・オーケソン(g)





彼のようなギターを積極的に歌わせていかないタイプのギタープレイが、このバンドにはとてもよくハマっていると思います。キーボードが2人にコーラスワークも厚いバンドなので、クリーン&単音のギターが丁度綺麗にアンサンブルに収まっている場面も多いと思います。