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音楽の話はここで書くかもしれません

TILT A LA CITTA' 2005- ARTI & MESTIERI

6/12(日) open 17:00/start 18:00
ARTI & MESTIERI(アルティ・エ・メスティエリ)from Italy
 FURIO CHIRICOフリオ・キリコ:Dr)
 GIUSEPPE (BEPPE) CROVELLA (ベッペ・クロヴェッラ:Key)
 ROBERTO CASSETTA(ロベルト・カッセッタ:Ba)
 CORRADO TRABUIO(コッラード・トラブイオ:VI)
 MARCO ROAGNA(マルコ・ロアーニャ:Gt)
 ALFREDO PONISSI(アルフレード・ポニッスィ:Sax)
 MASSIMILIANO NICOLO(マッシミリアーノ・ニコロ:Vo) 

ということで、昨日のアルティライブの備忘録。

プログレジャズロックファン以外にはまず知られてないと思われるバンドだけに、デビュー30年目にしての初来日という条件を差し引いても、会場が埋まるか心配していましたが、蓋を開けてみれば当日券は出ていたものの、後方の席までほぼ満席という客の入り。僕はフリオ正面の5列目というまずまずの位置からライブ鑑賞をすることができました。
まずはやはり「フリオ!」と言ったら「キリコ!」でお馴染み(?)の、全アルティ党員が熱望していた生フリオ・キリコのドラミング。昨日も書きましたが、正に「情熱的」という言葉がこれほどまでに当てはまるドラマーはそう居ないでしょう。「Tilt」発表当時世界一と呼ばれたという驚異的な高速ドラミングは、50歳を迎えた今も衰える所を知らず(というか、あのマッチョな肉体と、サラサラヘアのハンサム爽やか笑顔は10歳は若く見えますw)、むしろその勢いを増してるのかと思わせる程。今年はPMGのアントニオ・サンチェス、CCEBのデイブ・ウェックルという世界トップクラスのドラマーを見ていますが、そのどちらとも違うタイプの説得力を持った熱いドラマーがフリオ・キリコでした。
見ていて気付いたのですが、フリオはどうやら左利きのようですね(サインも左手で書いてましたし)。ドラムセットは通常の右利き用のセッティングを基本にして、センターのタムから左右に口径が小さくなり、両脇にフロアを配置するという変則セット。左側のハイハットは左手、スネア(かなり外側に傾斜させてセット)を右手のレギュラーグリップで叩くというスタイルは初めて見ました。
そしてフリオと共にアルティのオリジナルメンバーであるキーボードのベッペ・クロヴェッラ。フリオのドラムライザーと並んで後方に一段高くセッティングされたブースは、正面にHammond B-3、その上にRoland JD800(モノフォニックのアナログシンセリード的に使用)、左右のキーボードは見えにくかったのですが、恐らく右手(下手)側にRhodesとその上にステージピアノタイプの鍵盤(YamahaのPシリーズ?)、左手側にはYamaha MOTIF7、その下にも鍵盤があったかもしれませんが僕の位置からは確認できませんでした。メロトロンの音が左手側のキーボード(MOTIFの位置じゃなかったような…)から聴こえたので、本物を持ち込んでいるのかと思いましたが、その姿は確認できませんでした。MOTIFでサンプリングしてたのかなぁ…?


記念すべき初来日のオープニングナンバーは大方の予想通り'74年の名作1stアルバム「Tilt」の冒頭を飾る「Gravitia 9.81」(邦題「重力」)。冒頭のユニゾンフレーズを耳にすると、全身の血が逆流するかの興奮。ベッペのピアノによる6/8のバッキングに合わせてフリオの高速ストロークが叩き出され、アルティ・エ・メスティエリのアンサンブルが紡ぎ出されて行きます。
セットリストは詳細まで覚え切れてないのですが(恥ずかしながら全ての曲と曲名が結びついてる訳でないので…)、1st「Tilt」と2nd「明日へのワルツ」の初期の名作2枚の曲はほぼ演奏されたはずです。(アルティは3rd以降プログレサウンドから、よりジャズロックフュージョンの方向へシフトチェンジして行ったらしく、自分は3rd以降、2000年の「Murales」の前までのアルティは未聴) 他にも「Murales」からのナンバー、今年発売の最新作「Estrazioni」(新曲+過去のアルバム曲を現在のメンバーで再録音したものを収録)からも数曲が演奏されました。タイトで緻密なアルバムの演奏に比べると、ライブならではの勢いと躍動感も加わった演奏で、この辺りはやはりラテンのバンドならでは。地中海フレイバーの溢れるメロディに早くもうっとりしていると、「Strips」でボーカリストが登場。体になんだかチューブみたいなのを巻き付けてるぞ、、、、恋レボの衣装か!?w

さて、このマッシミリアーノ・ニコロというボーカリスト(「ヤノー」って呼ばれてたような?)、ビジュアル系(オネエ系?w)の細身のラテン美形(でもお腹がちょっとプニってたw)で、怪しさ満点なのだけども実はかなりの実力者。インスト曲も多いバンドなので、その間は袖に消えてしまったり、曲中でもインストセクションでは、しゃがんで紙ヒコーキを折っては客席に飛ばすというパフォーマンスw(いちいちシアトリカルに大袈裟なアクションでやるのが面白い)で楽しませてくれました。アンコールでは彼の尊敬する、アレアの故デメトリオ・ストラトス(偉大なマエストロと言ってました)に届け、とばかりに気迫のボイスパフォーマンスを聴かせてくれました。ホーミー凄かったなぁ…。

サックスのアルフレード・ポニッスィ。風貌はお調子者のオヤジ風ですが、ソプラノ、アルト、テナーサックスだけでなくフルートまでも完璧に操るマルチぶり、サックスにおいては凄まじいまでの速弾きを聴かせてくれました。
バイオリン奏者のコッラード・トラブイオ。時に勢い余るプレイもありましたが、若さ溢れるいい演奏でした。サックスとの難解なユニゾンフレーズもビシビシと決める彼はなんと若干18歳! 末恐ろしいプレイヤーです。
ギターのマルコ・ロアーニャはパンフレットのプロフにもありましたが、いかにもサンタナやヘンドリックスが好きそうな風貌。フロントにハムバッキングを搭載したテレキャスターで、ちょっと枯れたディストーションから綺麗なクリーントーンまで幅の広い演奏。時にコンテンポラリーなプレイも飛び出し、そのプレイ巧者ぶりを見せ付けてくれました。アコースティックの演奏もとても良かったです。
ベースのロベルト・カッセッタ、特別に目立つシーンこそありませんでしたが、クリス・スクワイアを思わせるトレブリーな音色から豪快なファズトーンまで指、ピックと使い分けての堅実なプレイでボトムを支え、こちらもやはり相当のプレイ巧者。というか、本当にみんな巧かった。イタリアのミュージシャン層の懐の深さを改めて見た思いです。

フリオ・キリコ、彼の情熱的なドラムは実際に目にしないと、言葉で表現するのは非常に困難なのですが(サウンドもアクションも)、正に全身全霊を込めて叩くといった感じで、ロールの滑らかさからダイナミクスの表現まで正に超一級のプレイ。下手をするとメロディラインのバックでひたすらドラムソロを叩いてるかの高速ストロークもあるのですが、それが曲の邪魔にならずにグルーヴを生み出している所にはもう脱帽。あれですよ、人間凄いものを目の当たりにすると、ただ言葉を失うか、思わず笑ってしまうというのを久々に思い知らされました。
そしてフリオと共にバンドの中枢でありオリジナルメンバーのキーボーディスト、ベッペ・クロヴェッラ。人の良さそうオジサマですが、演奏は実にアグレッシブ。火を噴くようなハモンドオルガンからギター顔負けのシンセリード、メロトロン(音色)のストリングスでのリリカルな演奏をしたかと思えば、Rhodesとピアノでジャジーなソロと正に縦横無尽のキーボードプレイ。いやぁ、格好良かったです。MCは基本的にベッペの担当で、日本語での微笑ましいMCには会場も暖かい雰囲気に。メンバー全員、人の良さそうなラテンの人達だったなぁという印象です。


18時の開演時間を少し押してのスタート、終わった頃には21時を超えていたので、ぶっ通しで3時間近い濃密なパフォーマンスを見せてくれたアルティ・エ・メスティエリ。ダブルアンコールでは、この日2度目の「Alba Mediterranea」(新作「Estrazioni」より、オリジナルは「Murales」収録)、21世紀に蘇った地中海プログレといった趣のこの曲、曲中で倍テンの高速4ビートジャズが挿入されたかと思えば、ベッペはピアノ、ビブラフォン(シンセ)、シンセリード、ハモンド、ローズ… と手持ちのキーボードをフルに使った1人ソロ回し、ベッペは本当に楽しそうにキーボードを弾くのですよね。眉をひそめて難解なフレーズを弾くプレイヤーよりも、彼のようなプレイヤーに僕は憧れてしまいます。もちろんやってることは、一筋縄ではいかないものばかりなのですけども。そして続けざまに演奏されたラストの曲は「重力」! 1回目のアンコールのスタンディングオベーションから観客は総立ち。実際、彼らの音楽は座ってじっくりと聴くよりも、体を動かして時には踊りながら楽しむ音楽でしたね。
少々残念だったのはPAバランスのせいか、ギターやボーカルが聴こえにくいシーンが何度かあったこと。ボーカルがハウってしまうというのもありましたが、それを除けば非常に素晴らしいライブでした。プログレバンドのライブとは思えない爆音も、フリオの地を裂くようなドラムを体で感じることが出来て良かった。

あと、フリオのドラミングに面白いシーンがあったので最後にひとつ書いておきます。チューブのようなものを口にくわえながらドラムを叩いていたのですが、どうやら息で空気を送りながらタムのチューニングを微妙にコントロールしていた模様。只でさえ呼吸が大変そうなパワードラミングの最中にそんな繊細なことをしてるとは、フリオ・キリコ恐るべし。最後は10本以上の大量のスティックを客席に投げ込んでましたがw、僕の隣の人が1本キャッチ、、うーん、、惜しかった。
ライブ後はパンフ購入者対象のサイン会、フリオの手はそれほど大きくもなく(身長もそんなに高くないはず)、やわらかい手で力強い握手でした。メンバー全員陽気でいい人そうだったなぁ、、、今回の来日で彼らが日本を好きになってくれた事を願ってます。この公演(土日の2公演のみ)はライブレコーディングされて、CD、DVDでの発売も予定されているようなので、見逃した方は発売されたら是非とも手にしてみてください。

〜Keep on Dreaming!〜(GIUSEPPE CROVELLA)